<報告>Session C: 国際教育プログラムの学習成果

西山聖久 (名古屋大学 工学部・工学研究科 講師)

講師: 池田佳子 (関西大学 国際部 教授)
芦沢真五 (東洋大学 国際学部 教授)

芦沢教授による講演
芦沢教授による講演
2018年9 月6日から7日にかけて実施されたセッションC(後半)では、大学、企業関係者12名による参加のもと、「国際教育プログラムの学習成果」として、「(1)Eポートフォリオの実用事例」、「(2)オンラインを併用した効果的な国際共同学習(COIL)のすすめ方」についての研修が行われました。以下は、そのワークショップ形式による研修の概要についての報告です。

(1)Eポートフォリオの実用事例

セッションC(後半)では、まず、芦沢真五教授により、東洋大学での事例を基に、Eポートフォリオについての説明がなされました。そして、参加者によるグループディスカッションを通じ、Eポートフォリオの活用における利点と課題に関する議論が行われました。
Eポートフォリオとは、学内外の様々な活動をオンラインで記録するシステムであり、北米、豪州などでは汎用的に使われ始めています。日本国内の大学でも、既に主要な大学において活用され、国際教育に特化したポートフォリオも運用され始めています。例えば、学生は自身の単位の取得状況や英語検定試験の結果、そして、ボランティア等の学外活動等、修学状況や学生生活における目標の到達状況を記録・管理する事が出来ます。また、留学先の学生が日常的に学習状況を記録し、教員がそれに対してコメントする等、教員と学生による有機的なコミュニケーションも可能となります。大学全体としても、教育成果に関するデータを蓄積する事が可能となる為、将来における更なる活用が期待されています。
続いて、Eポートフォリオに関する説明を踏まえ、参加者によるグループディスカッションが行われました。グループディスカッションでは、Eポートフォリオを活用する大学を想定したケーススタディが行われました。これを通じ、参加者は、Eポートフォリオにより蓄積されたデータの活用と公開の範囲に関し、学内の立場により意見が異なり得る事、また、蓄積されたデータの有効な活用方法については、まだ課題が存在する事を理解する事が出来ました。

(2)オンラインを併用した効果的な国際共同学習(COIL)のすすめ方

池田佳子教授による研修では、主にIT技術を活用した国際交流教育への理解を深める事を目的とし、現在、関西大学により実施されている、オンラインを併用した効果的な国際共同学習(COIL)への取り組みが紹介されました。
参加者は4つのグループに分かれ、グループディスカッションやグループワークを通じ、COILに関する概念や事例を様々な角度から共有することにより理解を深めました。以下、研修にて扱われたトピックである、「COILとは何か?」、「COILをする価値はあるか?」、「COIL授業設計をする上で考えるべきこと」、「COILで活用するICTツールの事」、「COIL科目担当講師の声」のそれぞれについて報告します。

・COILとは何か?

受講生の様子
受講生の様子
COILとは、Collaborative Online International Learningの略であり、種々のITツールを駆使した遠隔交流によるグローバル教育を意味します。COILによる講義では、学生達はSkype、Zoomといったインターネット電話サービス、Face Book、LineといったSNS等を活用し、日本に居ながらにして世界とつながる事が前提となります。そして、学生達は、その環境を積極的に活用しながら、教員により設定された協働タスクに取り組むことにより学習を進めていきます。
COILに関する理解を深める上での注意点として、COILは、カリキュラムやソフトウェアの名称等と混同される事があるが、あくまで、教員・学生がITツールを活用し、国境を越えて相互の協調を通じて学ぶ手法を意味することが特に強調されました。

・COILをする価値はあるか?
上記、「COILとは何か?」の説明に続く形で、関西大学における事例として、COILに参加した学生が、教員により提示された協働タスクを進めていく様子が紹介されました。学生は、様々なバックグラウンドを持つ世界中の学生と、英語を用いてコミュニケーションをとる経験を通じ、必然的に英語力を向上させているのみならず、学生の文化的背景や、コミュニケーションの仕方の違いを体感する事により、将来グローバルに活躍する為に必要な素養を身に付ける事が出来るとのことでした。
続く、グループディスカッションでは、COILを実施する事による期待される効果について、参加者による考えを共有しました。COILに関する紹介を通じ、国境を超えた課題解決型の活動により、社会人基礎力と共に国際感覚養う事が可能となる事は明らかである事は、参加者全員の共通の認識となりました。また、授業に参加した国内の学生同士の交流にも効果がある、COILの活動を通じて海外の学生と知り合う事によって、海外が身近なものとなり、将来の海外留学への動機となり得るといった意見も出されました。実際、COILを通じて知り合った仲間に会いに行った事例もあるとの事でした。
続いて、学生たちが協働して取り組むタスクの設定も、COILを成功させる上で重要なポイントとなる事を理解する事を目的とし、実際にCOILにて用いられている協働タスクの例を、3名のグループによるグループワークを通じて体験しました。具体的な協働タスクの内容は、1名がある動画を視聴し、もう1名にその内容を口頭で説明し、そのもう1名は、説明を聞きながらその内容をイラストに起こす。そして、残りの1名がパワーポイントスライドに落とし込み、それをグループの結論としてまとめるといったものでした。
この協働タスクでは、学生達が卒業後に直面する課題における困難を再現されています。企業の業務等における課題の多くは、例えば二人三脚のように、チームのメンバーが各自の責任を果たして初めて成功する性質を有しています。そこで、このタスクにおいても、同様の困難を乗り越える経験、つまり、他の学生があるタスクを完了しなければ、別の学生が次のタスクに進むことが出来ないような状況が意図的に作り出されています。

・COIL授業設計をする上で考えるべきこと
ここでは、グループディスカッションを通じ、COILの授業設計をする上で考えるべきこと、COIL実践を組織としてサポートする方法、学内でCOIL実践への賛同者をどのように増やしていくか、について学ぶと共に、これに関する参加者の意見を共有しました。
COILの授業設計をする上で考えるべきことを理解する為、国内大学の教養科目の講義を、米国の社会学の講義とCOILにより結び付ける事を想定して設計していくケーススタディを行いました。これを通じて、双方の講義は社会学に関する話題を扱うという点においては共通しており、例え講義のタイトルが異なっていても、共通点を効果的に活用する事が出来れば、COILの実施は可能であるいう事を理解できました。一方、講義やタスク実施の時間の調整や課題を出すタイミング等、COILを成功させるには極めて綿密な打ち合わせが必要であり、担当教員の負担も軽くはない事も認識できました。
COIL実践を組織としてサポートする方法、学内でCOIL実践への賛同者をどのように増やしていくか、に関しては、特にCOILという言葉さえ広まっていない環境では、まずは大学内の留学生と日本人学生による国際交流等、出来る範囲の活動から開始し、徐々に海外大学の関係者も巻き込みながら、実績を積んでいくといった方法が有効なのではないかといった意見が出されました。

・COILで活用するICTツールの事例
COILを行うために便利なツールの実例として、Zoom、Flipglid、Padlet、Kahootが紹介されました。ZoomはSkypeと同様、インターネット電話サービスにより国境を越えて教室と教室をつなぐことが可能となります。Flipglidは動画ベースの学習プラットフォームであり、アカウントへの参加を許された学生が、気軽に動画をアップロードする事が出来、自己紹介等に活用する事が出来ます。Padletはチャット形式で様々な素材を共有し、オンラインでの共同作業に便利なツールです。また、Kahootはクイズ形式の問題を手軽に作る事が出来ます。
特に、これらは、他のツールに比べ、IT慣れていない学生が国境を越えてつながる上でのハードルも低くなっています。どれも、グーグルもしくは、マイクロソフトのアカウントを持っていれば、リンクを共有することによりコミュニティの形成が可能となり、機能も極めてシンプルで扱いやすくなっています。また、これらのツールを使う事により、講義の時間帯以外も学生達が自主的につながる事も可能となります。特に、動画を活用する事により、米国等、日本との時差が大きい地域の学生との交流を無理なく行うためのツールとしても活用する事が出来ます。

・COIL科目担当講師の声

COILの実践
COILの実践
二日目には、実際にCOILによる講義を担当している2名の関西大学の教員と研修会場を、上記のZoomを用いてつながり、COILの雰囲気を味わいながら、意見交換を行いました。各講師からは、担当している講義の概要に加え、COILを活用する上で工夫している点、苦労した点などの説明がなされました。これに対し、研修の参加者からは、学生の英語のレベルのばらつきは講義の進行に影響しないか等、英語によるコミュニケーションによる課題についての質問がなされました。この質問に対しては、各講義において必要な英語のレベルを設定しており、そもそも、英語を話したいという意欲を持った学生が集まる学部なので、学生達は積極的に取り組んでいるとのことでした。

・国際教育と学習成果分析の在り方(Eポートフォリオの運用拡大に向けて)
今回の研修では、COILを題材として、多様なオンラインのディバイスを活用し、学生の学びを最大化していく試みが紹介されました。オンライン上のシステムを使うことで、紙媒体ではできなかった情報の共有をはかり、国境を越えた共同教育を実現することができます。
これに加えて、オンラインのシステムを使うことで、学生の学びの軌跡を的確に記録することも可能になってきました。本研修では、国際教育の学習成果を蓄積・分析する手段としてEポートフォリオを紹介されました。この学習成果の蓄積という機能に加えて、Eポートフォリオは、学生自身が自己の学びの成果を振り返り、自己の学習成果をオンライン履歴書として対外的に発表する「ショーケース」としても要素も持っています。COILという新しい国際共同教育のアプローチとともに、学習成果分析の手段としてEポートフォリオの運用拡大を目指していくことが期待されます。

おわりに

報告者は、今回の研修を通じて、極めて有意義な時間を過ごすことが出来たと感じています。主要なトピックとして扱われたE-ポートフォリオ、COILの双方とも、場所や時間を超えて学生と教員による学術的交流を可能とするという点において次世代グローバル教育を具体的にイメージさせるものでした。これに加え、一方向的な講義形式ではなく、例えば、グループワークでの考える時間には個性的な音楽が鳴る等、楽しい工夫が随所に取り込まれていたことも、比較的長時間の研修であったにもかかわらず、随時フレンドリーな雰囲気が保たれた要因だと思います。
特に報告者が驚いたのは、既に世界の11の地域の21大学のネットワークを活用し、運用されている関西大学によるKU-COILの取り組みでした。紹介されたツールは、どれも、無料でダウンロードできる等、高額な設備が必要としないので、インターネットとやる気さえあれば、ある意味すぐにでも実施できてしまうという点において、近年のIT技術の進化を実感しました。時差、移動コスト、単位の互換等、多くの学生にとって留学を実現するために乗り越えなければならないハードルは低くはありません。COILはそういった問題を解決し、より多くの学生にグローバルな視点を持つ機会を与える画期的な手段だと感じました。
大学の国際交流に携わっている、報告者としては、今回の研修で学んだことは、どれも斬新かつ重要な情報ばかりでした。このワークショップを企画・運営に尽力された関係者の皆様には、改めて、心よりお礼申し上げたいと思います。