<報告>Session B: 留学生リクルーティングとアドミッションの方策

九州大学 アドミッションセンター 翁 文静

講師: 白石 勝己(公益財団法人アジア学生文化協会・理事長)
佐藤 智之(立命館アジア太平洋大学アドミッションズ・オフィス(国際)課長)

白石講師による講演
白石講師による講演
セッションB(前半)は、8名の参加者のもとで、まずは背景事情について学び、①リクルーティング戦略の構築、②留学生リクルーティングとアドミッションの方策にかかわるワークショップを実施した。

セッションBの研修概要と振り返り

・知識編

9月5日(水)15:00-18:00の間、2名の講師がそれぞれ①「リクルーティング戦略の構築」、②「留学生リクルーティングとアドミッションの方策」について講演されました。

①白石講師のリクルーティング戦略の構築

白石講師の講演を一言で言えば、データあり、理論あり、実践につながる基礎知識と事例もたくさんということです。
データの中身は、「世界における留学生数の長期的傾向」、「日本の留学生数推移」、「日本語学校生数国地域別推移」、「日本語学校生2010-2017」、「留学生30万人計画の目的と方策」、「ポスト30万人計画を見据えた留学生政策」などでした。これらのデータは、時間と地域という二つの軸にバランスよくまとめて提示され、我々受講者の目に焼きつきました。
また、講師は私たちに考えさせながら、データの裏や理由についても丁寧に説明してくれました。例えば、講師が受講者に図1の世界における留学生数の長期的傾向を見せ、「これまで上昇し続けた留学生数が2010年以降、横ばいになった三つの理由はなんですか」と質問しました。元留学生であり、なおかつ現在、本校の国際入試業務に携わっている私は二つしか答えられませんでした。一つは留学生派遣国における高等教育の質の向上、もう一つは留学生受け入れ国における規制です。講師に三つ目の回答(留学生の数え方の変化)を教わり、納得しながら、悔しい気持ちもありました。また、日本における留学生動向について、講師から「なぜ近年、ベトナム、スリランカなど非漢字圏の留学生が増えてきましたか」という質問もありました。日本語学校を訪問した際に、日本語講師に教わったことがあるので、回答(3.11の東日本大震災)がすぐにわかりました。
白石講師の講演は1時間半もかかりましたが、受講生から見れば、あっという間でした。休憩時間はいらないとさえ思いました。研修後、自ら振り返りをしてみました。なぜそこまで私は関心を持ったのでしょうか。おそらく、今まで「点」という断片的な知識や経験が研修によって、連続の「線」になり、自分の中ですっきりしたのかもしれません。それならば、この「線」を今後いかに「面」に変貌させるのかが私の課題となります。

図1 世界における留学生数の長期的傾向
図1 世界における留学生数の長期的傾向

留学生受け入れ理論についてですが、「古典的モデル」、「70〜80年モデル」、「新経済主導モデル」が提示されました。この三つのモデルは、さらに10種類に細分化されています。一見難しそうですが、それぞれの理論の概要について、二言、三言とコンパクトにまとめられています。研修中すぐに飲み込めなくても、後日資料を参考にすれば、きっと理解できます。質の高い研修、後味残る深い研修には、ある程度理論について勉強しないといけないと個人的に思います。
 講演の最後に、白石講師が実践につながる基礎知識と事例ついても紹介してくれました。これらの知識や事例を通して、学力のみならず、(出身)地域特性や経済力も考慮した上で留学生を選抜しなければならないこと、日本の現行の留学フェアが単発で終わってしまうことなどを知り、驚いたり、納得したりしました。

②佐藤講師の留学生リクルーティングとアドミッションの方策

佐藤講師による講演
佐藤講師による講演
佐藤講師の講演の最大の特徴は豊富な実践知の伝達です。所属先のAPUは世界中から優秀な留学生が集まり、日本の中でもっともグローバル化が進んでいる大学の一つと言っても過言ではありません。しかし、公表されているデータやAPUの配布物などを見ても、APUの成功の鍵、コツ、もしくは過去の失敗、苦労などが見えません。言い換えれば、APUを参考にしようと思っても、表面的に入手できる情報だけでは足りないということです。そういう意味で、佐藤講師の講演は極めて貴重です。
講演の内容は、具体的にAPUにおける五つの「変」と今後の課題によって構成されていました。五つの「変」とは、①マーケットの変遷、②入試言語の変遷、③リクルーティング手法の変化、④マーケティング手法の変化および⑤審査プロセスの変化です。ここですべての内容を紹介し、感想を書くことはできませんが、私がもっとも関心のある三つの学びをピックアップします。一つ目の学びは、リクルーティング手法の変化に関することです。APUは現在32の国・地域のAgent(計17社)と契約を交わし、リクルーティングルートを拡大しています。佐藤講師のお話を聞く前までは、Agentを活用することを考えたこともありませんでした。Agentルートの拡大戦略など、APUの取り組みに大変感心しました。そして、二つ目の学びはマーケティング手法の変化の一つ「アナログからデジタルへ」です。ここでいうデジタルとは、SNS(facebook、Instagramを含む)展開のことを指しています。SNS展開の理由ついて、講師の「世界にAPUを届けるにはこれしかない」という一言が印象的でした。三つ目の学びは、審査プロセスの変化に関することです。留学生の審査に関わったことのある人ならば、違った国・地域の高校成績をどのように順位づけするのかということに頭を抱えたことがあるでしょう。さらに、同じ国・地域の中でも、高校によって、厳しく点数をつける高校もあれば、その逆もあります。毎年数多くの留学生を受け入れているAPUが高校ごとの成績をどのように把握しているかというと、外部業者に委託し、「海外110以上の国・地域から4000校を超えるデータを蓄積」しているそうです。高校データの蓄積はとても大事なことだと思います。しかし、留学生を少ししか受け入れていない大学なら、その必要性があるのか、あるとしたら、どのように蓄積するのか、という疑問が同時に生じます。研修中、講師に聞くタイミングを逃してしまいましたが、幸い後日にAPUを訪問する機会をいただきました。
佐藤講師の講演のもう一つの特徴は洗練された配布物を用いた説明です。研修中に配布された資料は主に、『立命館アジア太平洋大学2019年度学部案内』、『学士課程入学試験要項—日本国内に在住する国際学生を対象とした入学試験』、『学士課程入学試験要項—日本国外に在住する国際学生を対象とした入学試験』、『学士課程入学願書』および「数字で見るAPU」ハガキでした。これらの資料が色ごとに分かれており、分量が少なく(20、30ページくらい)軽いのが印象的です。特筆すべきことは、すべての資料に日本語版と英語版の両方が用意されていることです。また、講師の話によると、APUの大学案内は日本語、英語だけではなく、中国語、タイ語など5ヶ国語ほどに翻訳されています。私の業務の一つは海外の留学生フェアで大学を宣伝することです。海外に行くと、熱心な保護者がよく会場に来ています。その際に、彼らは母国語の資料やパンフレットを求めます。APUの多国語資料は、留学生やその親を最大限に配慮して作られたものといえます。

ワークショップ編

研修二日目の午前に、前日の研修に基づき、「新しい英語トラック新設学部の募集戦略を構築する」というワークショップを行いました。ワークショップは、具体的に「1.重点募集地域の選定」、「2.当該国・地域の教育環境、留学状況の把握」、「3.アドミッションプロセスの構築」、「4.計画の実行」という四つのワークに分けられます。
受講生8名が2つのグループに分かれ、それぞれ仮説の学部を作り、アドミッションポリシー(AP)と定員を設定した上でワーク1~3の一部を実行し、意見交換を行いました。私たちのグループでは、表1で示した通りの前提を設計し、インドネシア(10名)に特化した戦略を立てました(表2)。

表1 新設学部の前提設計

学部の名前 国際総合学部
AP 英語を含むコミュニケーション能力を持つ人、協働性・協調性のある人、創造力をもつ人、高度な専門性を持つ人、主体的に学ぶ姿勢のある人
定員 80名(留学生60名)
立地 尼崎
募集時期 春(4月)と秋(10月)
ロケーション 中国、韓国、台湾、香港、タイ、マレーシア、インドネシア(10名)、シンガポールを中心

インドネシアにおける募集戦略を立てる際に、2名の講師から様々なアドバイスや注意点をいただきました。例えば、白石講師から「各国の経済状況や教育制度を調べる際に、公的統計データを使ったほうがよい」、「インドネシアで留学フェアを開催する際に、参加者が多いが実績につながらない。高校訪問のほうが効率がよいかもしれない」などの貴重な意見をいただきました。

表2 インドネシアにおける募集戦略

ワーク1 インドネシアの経済状況、就学率などを調べた
・一人当たりのGDP4000ドル
・進学率:24.5%
・高等教育機関の収容力が低い
・1月正月、2月正月、6月中旬断食
ワーク2 インドネシアの教育環境、留学状況などの把握
・2学期(7〜12月と1〜6月)
・全国統一試験(卒業前)
ワーク3 アドミッションプロセスの構築
・広報は9〜12月の間
・高校訪問(実績のある高校)
・大使館に協力をもとめ、新たな高校を開拓
・JASSOの事務所に協力をもとめる

以上のように、国際教育にかかわる教職員向け夏季研修(Bテーマ)が二日間にわたって、和気藹々とした雰囲気の中で行われました。2名の講師からたくさんのことを学びました。また、長時間、少人数のワークショップを通して、講師たちはもちろん、多様な参加者(他大学の教職員、協会/企業の方)とも仲良くなれました。言い換えれば、研修を通して、立体的なネットワークが構築されたといえます。同じ業界の先輩と垂直の関係、また、他大学の教職員と水平の関係を結び、さらに、斜めから企業とのつながりも得られました。この研修に出席できたことを心から感謝するとともに、また機会があれば、参加したいと思います。